1950年代から60年代にかけて、言語習得についての研究が本格的に行われた。当時、言語習得は、行動心理学と構造言語学を背景にし、刺激.反応のよる習慣形成であると考えられた。特に外国語習得は単なる成人言語の模倣であり、学習者の誤りは母語の負的な影響による生じたものであると認識された。
1960年代後、Corderは、「誤り」が負的現象であるとまったく異なる主張を提出した。つまり、「誤り」は回避されるべきものではなく、言語習得の面において、不可欠な段階であるという観点である。例えば、英語母語話者の幼児は、動詞の過去形の習得過程で一定期間、不規則的な変形(go-went)を規則的な変形(go-goed)に使い違うことがよく発生する。これは、言語学習が明らかに成人言語の模倣ではないことの証拠である。このように、対象分析仮説は、誤り分析仮説に代わられた。誤り分析仮設は、誤りの多くが言語習得の発達段階における体系的なプロセスであることを指摘している。
この誤り分析仮説には理論的背景として、チョムスキーの変形生成文法がある。チョムスキーは、人間には、抽象的な文法規則の習得を促す「言語習得装置」はあり、言語発達には、普遍性があるはずであるという仮説を立てた。その仮説によると、人間は、うまれつき脳のなかに「普遍文法」(英語、日本語、中国語などとは異なる)を揃えていて、わずかな「言語インプット」と接触することによって、その文法を修正しながら、目標言語の文法を完成させていくのである。
最近まで、言語習得は外界からの刺激に対して反応が繰り返される習慣形成説によるか、習得中の言語に関して仮説を立てて、その仮説を絶えず検証しながら習得する生得説によるかが議論の中心であった。しかし、今は、この生得説を抜きにして言語習得を語ることはでっきない。
出典「日本語教育事典ーE言語.言語教育研究の方法」
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