日本語教育能力検定試験に合格するための言語学
動的で物理的な遠近感覚
ダイクシス
言葉はは発話現場を基準として、発話現場によって内容が変わるという性質を持っている。との性質は直示性とかダイクシスとか呼ばれる。その性質が強い言語表現は直示表現と呼ばれることもある。直示表現として使われるという用法が直示用法である。
典型的な直示表現はコソア系指示詞である。話し手の領域を表すのは「コ系」で、聞き手の領域を「ソ系」で、話者以外の領域を「ア系」で表す。指示詞の使い分けは物理的動的な遠近感覚によるわけである。
直示表現は直示詞ばかりではない。「私」、「あなた」、「彼」も、発話現場(だれが話し手か、だれが聞き手か、だれが話してでも聞き手でもないか)によって内容が変わるので、これも一種の直示表現である。
また時間を表す直示表現もよく見られる。「今日」は発話の当日を指し、「昨日」は発話の前日を指すものである。1月1日に「今日」と言えば1月1日のことで、「昨日」は12月31日のことになる。10月1日に「今日」と言えば10月1日のことで、「昨日」は9月31日のことになる。いつ喋るか(発話現場)によって、直示表現「今日」「昨日」の内容は変わってきる。
例:あの規制は既に1997年に廃止されている。
?あの規制は既に2年前に廃止されている。
(「2年前」という言葉は、何らかの基準から2年さかのぼった年か)
静的で物理的な遠近感覚
「行く」と「来る」
まずは縄張りの話をする。犬が電柱にマーキングするのは、自分の縄張りを示すことである。個体空間(自分自身を中心として、他者がこれ以上自分の近くに来ると気持ち悪い。自分が一生この空間から出ない)と違って、私たちが縄張りから脱出することができる。具体的に言えば、縄張りは私たちの住居や仕事場といった安定した場所を中心に広がっている。
動詞「行く」と「くる」は、何らかの離れると近づく行動を表す。ここには、動的な遠近感覚と、静的な遠近感覚の両方に関わっている。私はどこにいようと、私の個体空間に向かっての彼の接近行動は「彼が私のところにくる」と表現できる。これは動的な遠近感覚。自分のところに何らかの接近行動ではなく、自分が行ったこともなく、見たこともない所有する縄張りへ何らかの接近動作は「来る」で表す。ここの「くる」は静的な遠近感覚。