2011年11月30日水曜日

物理的な遠近感覚

                                   日本語教育能力検定試験に合格するための言語学
動的で物理的な遠近感覚
ダイクシス
言葉はは発話現場を基準として、発話現場によって内容が変わるという性質を持っている。との性質は直示性とかダイクシスとか呼ばれる。その性質が強い言語表現は直示表現と呼ばれることもある。直示表現として使われるという用法が直示用法である。
典型的な直示表現はコソア系指示詞である。話し手の領域を表すのは「コ系」で、聞き手の領域を「ソ系」で、話者以外の領域を「ア系」で表す。指示詞の使い分けは物理的動的な遠近感覚によるわけである。
直示表現は直示詞ばかりではない。「私」、「あなた」、「彼」も、発話現場(だれが話し手か、だれが聞き手か、だれが話してでも聞き手でもないか)によって内容が変わるので、これも一種の直示表現である。
また時間を表す直示表現もよく見られる。「今日」は発話の当日を指し、「昨日」は発話の前日を指すものである。11日に「今日」と言えば11日のことで、「昨日」は1231日のことになる。101日に「今日」と言えば101日のことで、「昨日」は931日のことになる。いつ喋るか(発話現場)によって、直示表現「今日」「昨日」の内容は変わってきる。
例:あの規制は既に1997年に廃止されている。
 ?あの規制は既に2年前に廃止されている。
 (「2年前」という言葉は、何らかの基準から2年さかのぼった年か)

静的で物理的な遠近感覚
「行く」と「来る」
まずは縄張りの話をする。犬が電柱にマーキングするのは、自分の縄張りを示すことである。個体空間(自分自身を中心として、他者がこれ以上自分の近くに来ると気持ち悪い。自分が一生この空間から出ない)と違って、私たちが縄張りから脱出することができる。具体的に言えば、縄張りは私たちの住居や仕事場といった安定した場所を中心に広がっている。
動詞「行く」と「くる」は、何らかの離れると近づく行動を表す。ここには、動的な遠近感覚と、静的な遠近感覚の両方に関わっている。私はどこにいようと、私の個体空間に向かっての彼の接近行動は「彼が私のところにくる」と表現できる。これは動的な遠近感覚。自分のところに何らかの接近行動ではなく、自分が行ったこともなく、見たこともない所有する縄張りへ何らかの接近動作は「来る」で表す。ここの「くる」は静的な遠近感覚。

エンパシー

                                  日本語教育能力検定試験に合格するための言語学
エンパシー
心理的静的な遠近感覚は、エンパシーというものに関わっている。エンパシーは共感度と訳されることもある。日常生活であることに共感を持つの共感と違い、身内度と言ったほうが近い。日本語は「身内かどうか」という基準で言葉を使いわけるわけである。この基準を「エンパシー」と呼ぶ。
ヴォイスとエンパシーによって、次の表になる

      エンパシー
ヴォイス
Aが身内
Bが身内
Aが前景
ABに本を

さしあげる
あげる
やる
くださる
くれる
くれる
Bが前景
BAに本を

いただく
もらう
もらう

本によっては、「あげる」、「くれる」などの使いわけだけではなく、どちらかが前景の問題も含めている。「エンパシー」と「ヴォイス」を分けて考えておいた方がいいと思う。
例:田中さんが弟に本をくれた。
  (私にとって、弟が田中より身内の存在である)
  弟が私に本をくれた。
  (私自身が一番エンパシーが高い)
血縁関係だけではなく、地域、民族、国家によって心理的な遠近感覚も生じる。日本人にとって、同じ日本人は近い、外国人は遠く位置を付けられる。
また、動詞のテ形につく補助動詞「あげる」、「もらう」などの利益の授受表現を実に多用している。
例:私が「わからない」と言うと、その人は私を車で連れていってくれた。
  (その人が私に利益を与える)
  では、「月の砂漠」を歌わせていただきます
  (皆さんが私を歌わせる。そのような力を与えくたさるのは、私にとってありがたいことである。皆さんが私を歌わせることで私は利益をいただく)

2011年11月29日火曜日

アニマシーとヴォイス

                    日本語教育能力検定試験に合格するための言語学
 アニマシー
アニマシー(有生性)とは、生きている程度ということである。人間に近いものの方はアニマシーが高い。日本語の存在表現もその一つである。アニマシー高い(つまり生きている感じがすごくする)ものの存在は「いる」で表し、アニマシー低いものの存在は「ある」で表す。
例:怪しい気配に振り返ると、人を襲うお化けの木が、いつのまにか、そこに(いました・ありました)
「いました」にする場合、木は根っこのところが人間の足のようになって、地面から抜けて走れるというイメージである。動物に近い、アニマシーが高い。
「ありました」を選ぶ理由は、木が動けなくて、幹に恐ろしい顔をつけているというイメージである。植物で、アニマシーが低い。
ヴォイス(態)
心理的で動的な遠近感覚は、ヴォイスに関わっている。心理的な遠近感覚というのは、人間が心で感じる遠近感覚で、ある人に対する親近感を感じるかとか、疎ましく感じるとか、いった親疎の感覚は、その代表例である。動的とは、その場面や状況によって早く変わるということである。
「ジェリーがドムをやっつけた」という文では、中心部位のジェリーが主役で、ドムが脇役である。主役のとこを一般に前景、あるいは、図という。脇役のことを背景、地という。「ドムがジェリーにやっつけられた」では、もともと背景のドムが今度前景になる。こういう具合にデキゴトの前景ー背景に応じて言語表現が変わるパタンーのことをヴォイスという。代表的なヴォイスとしては、能動ヴォイス、受動ヴォイス、使役ヴォイスがある。
能動態とは、話し手が力の与える手に注目してこれを前景にするというヴォイスのことである。普通、話し手が力の与える手に注意するわけだから、能動態は無標である。「無標」は、普通であればわざわざ標識を付ける必要がないことである。逆に、特殊だ、変わっている、普通じゃないことを「有標」と言う。受動態は特殊ヴォイスで、有標である。
受動文は三種類ある。所有関係によってできる受動文を所有受動文、あるいは持ち主の受動文などと呼ぶことがある。
例:一郎は泥棒に車を盗まれた(一郎は車の持ち主、所有関係)
  一郎が田中さんに子供を褒められた(一郎の子供、所有関係)
また、所有関係が特にない場合でも、第三者が強い被害感を持てば因果関係が形成され受動文を被害受動文、あるいは、迷惑受動文などと呼ぶ。
例:夜中に子供に泣かれて眠れない
  雨に降られて風を引いた
所有受動文や被害受動文と区別して、普通の受動文をまともの受動文
例:トムがジェリーに殴られた
  犬が強盗に殺された

2011年11月14日月曜日

複合語

未完成

複合語は、二つ以上語基から組み合わせて単語である。複合語の品詞は大部分後の構成要素品詞によって決める。構成要素を整理すると、名詞類、動詞類、形容詞類、形容動詞類この4種類になる。
 複合名詞
 1:名詞+名詞
 「1」:統語的な関係にあるもの
 (1):AがBの一部である場合
     父親、飾りもの
 (2):AとBの指す範囲が異なる場合
     歌姫、花吹雪
 (3):AがBの主体である場合 Aがすること
     学力低下、企業合併
 (4):AがBの対象である場合 Aをすること
     教育改革、環境破壊
 (5):AがBをするための道具、手段である場合 Aですること
     電話連絡、電子取引
 (6):AがBの材料である場合 Aでできている
     紙袋、金つぢ
 (7):AがBの原因、理由である場合 Aが原因ですること
     事故死、ガス中毒
 (8):AがBの場所を表している場合 Aにある
     裏門、山道
 (9):AがBの時間を表している場合 Aの時期に~する
     朝ごはん、新年会
 (10):AがBの性質をもつ場合  Aの性質を持つ
     親心、猿芝居
  2:並列的な関係にあるもの
 (1):AがB類義成分のもの
    手足、衣服
 (2):AとBが対義成分のもの
    親子、天地

 
 

2011年11月13日日曜日

格とは、主に名詞相当語句が係り先である文中の支配要素とのあいだで取り結ぶ統合的な関係のことを言う。述語にたいする表層格には、ガ格、ヲ格、ニ格、へ格、から格、ト格、デ格、ヨリ格、マデ格がある。名詞にたいするものはノ格である。
連体修飾主語を表すガとノ
主語を提示するの場合、ガとノガ用いられる。でも、ノの使用にくい場合はいくつある
1:「外の関係」、被修飾名詞の内容を説明する連体修飾節の場合
2:連体修飾節内の主語と述語とのあいだに他の補語や副詞の成分などが介在する場合
3:連体修飾節が複文構造を持ち、その中の従属節にあたる節の主語を提示する場合
対象を表すヲとガ
感情、感覚の向けられる対象を「ガ」で示す
目に映る現象をそのまま述べる場合には、「ガ」が用いられる
動作の対象から述語までが長い文においては「ヲ」を使う
目に映る対象がなくて、効力の維持を表すような場合には「ヲ」ガ用いられる
「たい」をつけて願望を表す、「である」をつけて結果の状態を表すなどの場合は両方でも使用できる
場所を表すニとデとヲ
「ニ」:存在に重点がある、また、移動の着点を表す
「デ」:動作を行う場所や出来事の起こる場所を表す
「ヲ」動作の経路、通過点を表す
起点を表すうとカラ
「カラ」:終点へ向かう移動、連続の起点を表す
「ヲ」:前接する名詞句によって分けられた嶺域の境界通過に着目する
1:着点を表すニ格などの名詞句とともに「ヲ」は使えない
2:当該起点以後の動きや連続が認められる場合「カラ」が用いられる
3:無情物主語の起点は「カラ」で表す
目的地を表すニとヘ
「ニ」は主体や対象の具体的な移動を伴う場合用いられる。対象物がその場所に行き着いた状態であることを表す
「ヘ」は方向性を表す。名詞修飾構造における場合ハ、「ニ」に置き換えることはできない。
材料を表すカラとガ
元になるものが生産物になる過程で質の変化を伴う場合は「カラ」、質の変化を伴わない場合は「デ」が用いられる
「ガラ」のつくりものは、生産の起点、生産物の核になるもので。「デ」のつくりものは生産の途中で加わる副次的なものである
起因を表すニとデとカラ
「デ」は最も一般的なもの
「ニ」は心理状態や自然状態の原因、また、一般的な変化や動作のきっかけとなる継起的起因を表す
「カラ」はほかに理由に近づい用法として判断の根拠を表す

2011年11月4日金曜日

母音

母音は3点によって分類されている。
 1:舌の高さ(舌の盛り上がりが高いか低いか)
 2:舌の前後の位置(舌の最高点が前寄りか後寄りか)
 3:円唇性(唇が円められるかそうではないか)
 舌の盛り上がる高さによって「高母音」「中母音」「低母音」に分類する。
 舌の盛り上がりの最高点が口腔の前寄りになるものを前舌母音、後寄りになるものを、後ろ舌母音、中程になるものを中舌母音と呼ぶ。前舌の最高点は、硬口蓋の辺り、後ろ舌は、軟口蓋の辺りである。
 ア中舌ー広母音 イ前舌ー狭母音 ウ後舌ー狭母音 エ前舌ー半狭母音 オ後舌ー半狭母音
 無声子音に挟まれた狭母音イ、ウが、声帯振動を伴わなくなる。イ段の「キシチヒピ」ウ段ノ「クスツフプ」「シュ」が、カサタハパ」行の前や「ッ」の前にある時、母音無声化する傾向が強い。
 例 かい いか しゅくじつ っくら
 また、狭母音以外、句頭の中母音、広母音でも、無声化は生じることがある。
 例 たい こ かる か かい

2011年11月2日水曜日

語形の日本語らしさと語形のゆれ

日本語らしさに関して、次の項目を挙げることができる。
1:拗音は直音に比べ日本語らしくない
 ミュージック
2:擬音語.擬態語や俗語を除き、語頭に濁音.半濁音が立つと日本語らしくない
 ピアノ
3:語頭にラ行音が立った場合はあまり日本語らしくない
 ロケット
4:語中や語尾のハ行音節は日本語らしくない
 ゴルフ
5:促音や発音は漢語や外来語であるという印象を与え、また卑俗感を伴うことが多い
 コンセンサス

ある語に異なる語形が二つ以上あり、かつ、それらの間に区別すべき合理的な理由が見つからない場合、それを語形のゆれという。
1:1拍を減らした語形によって生じるゆれ
 ほんとうーほんと、けっしてーけして
2:発音の容易化によって生じるゆれ
 つまらないーつまんない、すみませんーすいません
3;特殊拍の挿入によって生じるゆれ
 よほどーよっぽど、すごくーすっごく
4:漢字音にかかわるゆれ
 母音(ボオン、ボイン)、刻々(コクコク、コッコク)
5:外来語に見られるゆれ
 バッグーバック、ティームーチーム
6:そのほか
 さびしいーさみしい、ふんいきーふいんき
語形が違っていることに対応して、意味にも何らかの差があるという心理が働き、意味の上の区別が生じてくる場合がある。このように語形のゆれが積極的に利用されて別々の意味になると、ゆれではなく、別の語ということになる。

語形

語彙は語の集合であり、集合の要素である語は、一定の意味を持ち、文を組み立てる最小の独立した単位であると定義した。語の認定は意味の面からだけでも形の面からだけでもできるものではない。
日本語の拍は極めて単純な構造なので、一拍語は短くて不安定なために聞き逃しやすく、また同音語が多く区別しにくい。これを避けるために一拍語をほかの単語に言い換えたり、あるいは長くさせたりする方法が取られる。
例:身→からだ
  葉→はっぱ
ところで、同じ発音である同音語、発音が似ている類音語はコミュニケーションの混乱を起こるということでよく問題にされる。
語を音韻の連続体としてとらえたものを語形という。語形の長短は語種により偏りがある。和語と漢語、外来語とも第一位が4拍語、第二位が3拍語。漢語は2拍語と3拍語、4拍語で全体の97%を占める。和語は2拍語から5拍語まで約95%を占める。外来語は4拍語が25.7%、3拍語21.7%、5拍語19.4%、6拍語15.1%とたいした開きがなく、ばらつきがみられる。